歯科治療への考え方

今回のブログは自分の考えをまとめる意味でも自分が歯科医師として従事していて迷うことや考えていることについて書いてみたいと思います。

患者さんが見る側面と、歯科医師が診ている側面の違い

痛みに関する捉え方

まず患者さんは痛いから悪い、痛くないから悪くないと捉えている方が本当に多いです。わかりやすい歯科の疾患と言えばむし歯ですが、大人の歯のむし歯は神経に達する状況になるまでじわじわと無症状で進むことがあります。「ここに結構大きなむし歯があるんですが、もしかしたら削ると神経を取ることになるかもしれません」とご説明すると、「え、痛くないならまだ治療しなくてもいいですか?今仕事が忙しくて。」とか、「他の歯科医院ではそんなこと言われませんでしたよ?本当にむし歯ですか?痛くないんですけど。」などと返されます。これは痛みがあるかどうでいいか悪いかを判断している例です。

最近コロナが流行して知ったこともあるかと思いますが、無症状でもコロナという状況はありましたよね?病気は症状があるから病気ではない、それは皆さん分かっているはずです。国民皆保険治療の悪しき事例ではありませんが、皆「痛くなったら歯医者に行けばいい」と思い過ぎなのです。

高血圧には症状はありません。でも動脈に負担をかける症状のない病気です。心筋梗塞など、同じ心臓の病気を例に出すと、これは症状のある病気です。じゃあ心筋梗塞になるまで高血圧は放置しますか?僕は歯においても痛くなったらもう手遅れだと思っています。神経を取る。歯を抜く。強烈な痛みが出ているなら、もしかしたらそうなる一歩手前で食い止められたことが叶わない前兆かもしれません。

また、治療直後に痛みが出た時、前まで痛くなかったのに削ったことで痛くなった!と怒る方もいます。もちろん怒られたくないので、これこれこうだから痛くなるかもしれませんとはあらかじめ伝えるのですが、状況がすでに悪いので痛くならざるを得なかったとか、もっと早くに治療をしていたら痛くなってなかったかもと思ってもらえたらと思います。いくら今まで痛くなかったからと言って、削ったから痛くなったわけではなく、いずれ来る激烈な痛みが早めに少しマシになって今来ているのかもしれませんよね。「しみる!」と言われたりもしますが、しみるだけで済んで我ながらよくやったなと思ってたりもします。

むし歯で死ぬ方はとても少ないです。せいぜい寝られないくらいに痛みが出るだけです。その状況で歯医者にかけこみ麻酔も効きにくくなってる状況で痛いまま神経を取るのがよければ放置でも全然かまいません。その痛みすらどうにか乗り越えられれば神経は勝手に死に、一時的に痛みは引きますが、今度は根の中で病巣を作って根の先の骨を溶かします。骨全体に炎症が波及すると蜂窩織炎と言って高熱を出し痛みがちょっとやそっとでは引かなくなります。日本では医療が発展しているので少ないですが、海外ではその状況で死亡した方もいるくらいには状況は悪化します。当院でも駆け込みで来られた患者さんの状況があまりに悪いのを見てすぐに大きな病院に紹介した方がいましたが、その後ICUに入ったという報告を受けたこともありました。

むし歯じゃなくがんだったら皆さんはどう思うでしょう。「ここにがんがあるんですが、治療しても転移してしまっているかもしれません」と、言われたら「仕事が忙しいので」とか、「痛くないけど本当ですか?」とは言わないですよね。もちろんセカンドオピニオンなど、色々な先生の意見を聞くことも大事だとは思いますが、「一刻も早くがんを切除してください」とか「どうすれば助かりますか?」と必死に考えるはずです。がんは異形の細胞が増殖して臓器を蝕む病気です。歯の病気は細菌由来ではありますが、歯や周囲組織を巻き込んでどんどん組織を壊します。がん転移ほどの絶望感はありませんが、歯周病細菌が多いと心疾患や呼吸器疾患、脳疾患、糖尿病やがんにまでリスクが上がると言われています。可能性の話だけで言えば死ぬことだってあります。死ぬかもしれないという恐れががんより少ないだけで、全身に及ぼす影響は歯の病気も結構怖いと思いませんか?

「歯」はなめられている?

命は一つしかない。目なら二つしかない。五感をつかさどるものは不自由になると不快です。ですが、歯は28本、親知らずも含めれば32本あります。歯医者さんは正直「歯は人体組織としてなめられているのではないか」と思いながら仕事をしています。患者さんは痛くなるとしょうがなく歯医者さんに来ます。歯が痛くなる理由はほとんどの原因は歯みがき不足です。しょうがなく来ている患者さんはどこか他人事です。歯医者さんは歯を必死に治します。日本の歯科医の腕は世界的に見てもトップレベルに技術が高いと言われています。とても丁寧で繊細で器用だと言われているのに保険治療での治療を求められ、料金体系には技術差のない治療に気力で向き合います。そうして治療を受けた方に「またむし歯にならないように」と歯みがきの仕方を教えて治療を終えます。食べ物屋さんだとどうですか?「もう食べにこないように」とは言わないですよね。歯医者さんが治療を続けてずっと来てほしいなら歯みがきなど教えずにまたむし歯になってくればいいと思えばいいのに、むし歯にならない方法を教えてくれるのです。なのに口コミには痛かったとか、不愛想だったとか書かれることもあります。予約通りに来ない患者さんだっています。回数がかかりすぎだと言われることもあるでしょう。この職業のシステムをおかしいと思わないような聖人君子じゃないと歯医者は務まらないと思います。歯みがきを全然しないで痛くなって限界まで放置されていたのに簡単にすぐ体の一部が復活するようなそんな魔法みたいな医療はありません。それで予約を忘れたり遅刻をしたりしたら回数が増えて長期化するのも当たり前です。

そんなこんなで治療が終わり、歯みがきの仕方を伝えてみたとして、この痛みをもう起こらないように一念発起教えられた通り磨いてやろう!もうむし歯にはならないぞ!と思ってくれる患者さんはどのくらいいるのでしょうか。この数は5%くらいしかいないと言われています。必死に患者さんに説明をしても、実際は早く治療が終わらないかな?歯医者が嫌いだから早く帰りたいから聞いているフリをしようと、95%ものほとんどの人が聞き流しているのです。

塾と同じ

僕はこのシステムは塾に似ているな、と思います。塾の先生は勉強が出来ない子が頑張って勉強をしてくれて希望の学校に入学してくれると喜びます。決して夏期講習に来てほしいから頭が悪いままにしておこう、とは思っていません。もちろん評判や実績も必要なのでどうにか熱意をもって勉強を教えてくれると思います。歯医者さんに置き換えても「痛かったけど痛くなくなったよありがとう!歯みがきも頑張ってるよ」と言われたいし、実際歯みがきが上手になってその後症状もなく長い付き合いになり、痛みを感じることなく定期検診にだけ来て大した崩れもなく歯がずっと健康でいて欲しいのです。ただ塾であれば「この大学に入りたいから勉強しよう」と思ってくる子が多いと思いますが、歯医者はいかんせん行きたくないのにしょうがなく来た場所なのです。そこが違います。言うなれば塾だとしたら「母親にしょうがなく通わされている勉強の出来ない子供たちだらけの塾」だと言えるでしょう。そうなるとどうなるか。宿題を出してもやらない。授業中も聞いていない。必死に教えているのに親は文句を言ってくる。という状況になります。その中でも少しやる気を出して勉強を頑張る子が5%、と言われるとまぁそんなものかなと納得してしまいます。

どうしたらいいのでしょう

また塾に置き換えると「有名学校を目指すような頑張る子供をいっぱい抱える」というのが塾として評判を上げていく作戦かな、と思います。歯医者さんに置き換えると、治療を頑張る→予防を啓蒙する→理解してくれる患者さんを増やす→予防意識の高い患者さんを呼び込む、という流れになります。ほとんどの歯医者さんはそれを目指して頑張っています。ということはです。「評判のいい歯医者さん」と「予防意識の高い患者さん」はマッチングしますが、予約を守らなかったり、歯みがきを頑張らない患者さんはどんどんそういう歯科医院からふるいにかけられて予約が取れなくなっていく、ということでもあります。塾でも「この偏差値では他の塾に行ってください」となる状況が生まれると思うのでそれと同じです。

歯医者さん、衛生士さんはあなたの体を思い、未来の全身疾患のことまで見据えて説明をしてくれています。歯医者さんは嫌いで結構。僕も歯の治療を受ける時は怖いし、行きたい場所ではないと思います。ですが、あなたの将来の幸せを一緒に考えてくれているお話を半分に聞き逃すのはとてももったいないです。提案してくれている治療や歯みがきの方法はきっと信じて実践すればあなたのためになります。是非一度騙されたと思って言われたとおりにやってみましょう。

歯科皆検診義務化の流れにより2025年度より歯科検診が義務化するようです。僕は今まで述べたことから患者さんは二極化すると思っています。「今までも予防で通っていたから何も変わらない患者さん」と「しょうがなく行かなければならずしぶしぶ行く患者さん」です。勉強する習慣がある方からしたら学校に行くのは苦ではないですが、勉強したこともないのに急に授業に行ってこいというのは苦でしょうがないですよね。歯医者さんからしたら明るい未来です。今まで歯に関心が無かった患者さんがもしかしたら義務化したというだけで来てくれるかもしれません。ですが患者さんにおいては、しぶしぶ行く調子でことを構えていると、自分の理想の歯医者さんには絶対出会えないと思います。今のうちから予防について関心を持ち、治療ではなく気軽にかかりつけの歯医者さんに行く習慣づけをしておきましょう。義務化したものを義務のままで終わらせてつまらない通い方をするのはとてももったいないです。

自分の治療のやりなおし

歯医者をやっていると必ず起こるのが自分の治療のやり直しです。特に被せ物や根っこの治療は歯みがきが上手でないと2,3年で再発し外したりやり直したりしなきゃいけなくなるケースがあります。歯を被せる時よく家に例えます。根の治療は配管工事、歯周病は地盤改良、そして歯を被せるのは家を建てるようなものだと。じゃあ自分が建てた同じ家を2,3年で壊して作り替えないといけない大工さんがそうそういるでしょうか。職人気質な部分ではありますが、長く使ってもらえることに職業者としての喜びがあるはずです。歯医者さんにおいてはそれが簡単に起こります。保険治療においては「2年はちゃんと使えるように被せましょう」という補綴管理義務があります。自費治療においては独自的に定めた保証制度(当院では5年)を作っている歯医者さんもあります。だとしたら、作成するときにはそれなりにしっかりするようにどの歯医者さんも作っているはずです。であれば、悪くなる原因ははっきりしているのです。ほぼほぼがばい菌、歯みがきでばい菌が落とせていないせいです。痛くなったら行けばいいと思っている患者さんは定期検診に来ず、しれっと3年くらい放置して来ては歯みがきが出来ていないばい菌だらけの状態で「先生取れちゃったよ」と言います。自分のせいではないがどういうことだと言わんばかりです。自分たちは悲しいのです。ちゃんと長く使ってもらえなかったことをとても悔やんでいます。どうしたら歯みがきしてもらえるだろうか、ということを歯科に関わる職業者は常時考えています。

歯科医師2年目で気づいたこと

僕は2年目にして気づきました。研修医だった1年目はとにかく仕事をし始めて覚えることが多く、あまり色々なことに気づくことも少なかったのですが、2年目の僕は某歯科医院に代診ドクターとして勤め始め、若手ながらも色々な臨床について学んでいたところでした。特に高齢の方の治療が多く、いわゆる金歯をよくおすすめしている歯科医院でした。ですが金歯という高価なものを歯に装着しても、誰も大事にしない。金歯を入れてまた金歯を外し、また金歯を入れる日々だったのです。そう、気づいたことは「大人はほとんど歯みがきなんか教えてもその通りにやらない。今更何十年もそれでやってきたやり方を変えようとしない」ということです。自分より2年遅れで歯科医師になった交際中の現在の妻に「小児歯科の専門医を目指してくれ」と伝えました。もう大人は諦めよう、と。子供から予防の意識を植え付ければもう少し皆が歯みがきをしてくれる世の中になるのではないかと思ったのです。

歯科医師7年目で気づいたこと

その頃の僕は地方都市の歯科医院を離れ、大手の美容外科で都心で働き始めました。そこでは美容歯科治療を一通り学びながら今の治療方針の礎を築いたのですが、セラミック治療が多く、セラミック治療には保証制度がかかっていました。メンテナンスに通えば〇年は壊れても無償で再治療します、というものです。現在当院でもそのシステムは採用していますが、僕はこれは強迫的メンテナンスと思っています。高い治療をしたからにはメンテナンスに通って壊れた時の安心を買うということです。もちろん治療を始めようというときにはあった方が安心な制度だとは思うので、皆さんに当院を選んでもらえる工夫としてはあった方がいいと思うのですが、本来の正しい在り方からすると、すごく受動的なメンテナンスだと悩んでいます。本当は能動的に自分の意志でメンテナンスに通った方がいいと思ってもらいたいのです。ただ、これを続けることでそれが普通になってくれるのであれば、と思って採用しています。幸いなことに習慣化してくれる方もいます。ですが保証制度についてカウンセリング時には聞いてくるのに、保証内なのに途中でメンテナンスが途切れてしまう方が東京で働いていた時は体感7割くらいいました。メンテナンスの仕方にも改善点があったのかもしれませんが、結局習慣化していないこと、受動的に行わされていることを継続するということは人間難しいと思ったのです。

現在の思い

現在僕は和歌山に腰を据え、少しずつ実家の歯科医院を継承に向け患者さんの数を増やそうと、皆さんに予防歯科を伝えるべく歯科医療に向き合っています。和歌山と東京の往復をずっと続けていたので和歌山でも治療は行っていたのですが、自分が東京で抱えていた患者さんの数も多く、なるべく不義理にそちらの治療を止めたくなかったので一本化するのは時間がかかりました。和歌山で沖殿歯科医院と聞けば皆さんに認知していただけるような歯科医院になるように頑張っていきます。

人一倍丁寧に毎日治療をしているつもりですが、本当は治療なんかしなくていいようになればいいのにと思っています。気質として治療自体は嫌いじゃないのですが、治療があるということはまだ困っている人がいるということです。犯罪が無いなら警察要らないよね、みたいな理論ですが、むし歯や歯周病で歯を失うことなく、メンテナンスだけで歯科医院経営が成り立ち、皆が痛くもないし病気でない世の中が訪れるのであれば、正直治療なんかしなくても構わないのです。僕なんか街頭でティッシュでも配って広報活動しながら、衛生士さんが患者さんを診てくれていればいいと思っています。それは半分冗談で、歯並びを気にする方や先天性の欠損の可能性がある限り、矯正需要やインプラントなどの治療の需要は無くならないと思うので、治療が全くの0にはならないと思っていますが、皆さんの歯みがきレベルが格段に上がり、むし歯や歯周病が減って痛い痛いと困る人が少なくなってほしいのは本当です。

アラインテクノロジー社が出したデータですが、60代以上の男女400人に人体で失ったり劣化した部位で一番後悔しているのはどこかと聞くと、61.3%の人が歯と答えたそうです。何なら口臭も歯によるものかもしれないので、それだけ多くの人がお口の状況の劣化に悩まされています。後悔しているんです。後悔先に立たずとはよく言いますが、でもこの後悔、防げます。予防できるんです。どうしたらいいか。歯医者さんに行って、歯医者さんや衛生士さんの言うことを聞いて真面目に歯を磨くだけです。

歯科医師2年目で諦めた大人への歯みがき指導ですが、現在衛生士さんとどうやったら伝わるか、と実践方法を考えています。うちに通っていただける方へ口腔ケアでいかに幸せな未来を届けられるか、今の僕は諦めずに考えようと思っています。定期検診、予防、メンテナンス、明文化は避けますが、一応目的や方法はそれぞれ差がある言葉です。わかりにくいので全部同じものだとして一番簡単に言うのであれば、ただ一つ、とにかく歯医者さんに行こうです。痛くなくても困ってなくても大丈夫です。痛がりさん、怖がりさんこそ、何もないときに行きましょう。何かあったら痛くなるし怖くなります。

僕は欲張りなので、困っている方だけじゃなく、困っていない方の力にもなりたいと思っています。

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