予防歯科の考え方

過去一年間に歯科検診を受けた方の割合は今や2人に1人の割合だと言われています。昔に比べると検診の意識も上がってきているとは思うのですが、それでもまだまだ半分。歯科医師で予防をしなくていいと思っている歯科医師はいませんし、全国民が歯科検診を受ける世の中になればいいと考えています。実際政府の骨太の方針で2025年を目途に歯科検診が義務化されるかもしれません。今からかかりつけの歯科医院を探し、家族全員が同じ歯科医院で診てもらえるように一度歯科検診の受け方を考え直す時期が来ていると思います。

どうして定期的に歯科検診を受けた方がいいの?

トラブルが見つかるかもしれない

口腔内、つまりお口の中はご自身では絶対に隅々まで見渡すことが出来ません。歯科医師や歯科衛生士が患者さんの口の中を見た時ですら、どんなに注力して見たとしても見落としている部分があると思います。ですが第三者の目で見た方が確実に見落としは少ないでしょう。デンタルミラーやマイクロスコープ、拡大鏡などを用いて目視することで、むし歯や異常事態が起きていないか確認してもらえます。むし歯や歯周病は慢性的に進行する病気です。「痛くないから健康」ではありません、痛くなくても存在して無症状にでも進行する病気です。見つかる機会を少しでも増やすことが大事です。我々にトラブルを発見するチャンスをもらいたいのです。定期検診に来なければあなたのむし歯はひどくならない限り見つからずに大きくなっていくかもしれません。

データが溜まっていきます

歯周病の指標にもなるポケット検査などは「前回測った時は4mmだったのに今回は6mmで深くなっているぞ?」という風に比較が出来る検査です。お口の中をきちんと見ていく際には時間の経過による比較が大事になってきます。「今日はたまたま暇だから行ったことのない空きがある歯医者で検診を受けた。何も無いと言われたから大丈夫。」という検診の受け方よりも、同じ歯科医院でデータを溜めていくという受け方の方が有用だと思います。もちろん受けないよりは何倍もいいことだと思います。

治療が必要なタイミングを見極められる

歯科医師に「このむし歯は小さいから様子を見てもいいと思います」などと言われることがあるかと思います。ですがそれを「小さいから放っておいていいんだ」と捉えてはいけません。歯科医師は「(定期的にメンテナンスを受けるのであれば)このむし歯は小さいから(すぐ削っても小さなむし歯を取るために歯を大きく削るともったいないし)様子を見て(然るべきタイミングに治療する計画を立てても)いいと思います」という意味だと考えて下さい。おそらく「定期検診には通いません」とでも伝えようものなら、「じゃあ今すぐ治療していおいた方がいいでしょう」と言われると思います。定期検診は検診でもありますが、その方の治療の「即時にしなければいけない治療」と「間を開けながら様子を見ている状態」のインターバル期間でもあるのです。

ばい菌を除去できる

お口の中のトラブルのほとんどはばい菌が原因です。定期検診に来た際にクリーニングを受けることで、お口の中のばい菌を減らすことが出来ます。お口の中の菌数は便の中よりも多いと言われています。表面に付いた着色(ステイン)、自分では取り切れていない歯垢(プラーク)、歯垢が固まってしまい歯ブラシでは取れなくなった歯石、そしてどれだけきれいにしていても3か月程度で付いてくるという細菌の塊(バイオフィルム)を専門の器具で除去することで、お口の中を清潔に、そして審美的に保つことができます。

早期治療につながる

怖がりさん、痛がりさんが歯医者さんに行きたくなくなった理由は何でしょうか?よく思い返してみると「痛くなってから歯医者に行った」経験をお持ちだったりしないでしょうか。痛い時に行くと痛いことでしか対応出来ません。痛みが強ければ麻酔が効きにくくなりますし、神経を抜く、歯を抜くなど、突飛なことをしないと治らない状況になっていることがほとんどです。もし定期的に検診に行き、歯科医師に「今治すと麻酔も要らないかもしれません」と言われたタイミングでササっと治すというのを繰り返すとどうでしょうか。痛くない、麻酔も要らない、歯も残る。いいことづくめですよね。

歯みがきレベルの向上が見込める

基本的に何かを上達するためにはトライしてフィードバックすることが大事です。歯みがき指導を受けるということはジムのパーソナルトレーニングに近いものだと思います。データを取り、どこがみがけていないかを知り、それに対して改善する計画を立てます。そうやって弱いところを知って歯みがきが上手になることでお口の中のトラブル防止に繋がっていきます。

定期検診にさえ行っていれば本当に大丈夫?

たまに「私は3か月に1回歯科医院でクリーニングをしているので大丈夫です」と言い切る方がいます。この前提には「相当に歯みがきが上手」であればそうかもしれません。ですが、3か月というと約90日、3回食事すれば90×3の270回歯みがきをするチャンスがあります。このうち我々がクリーニングするのはプラス1回だけです。約99.7%はご自身の歯みがきにかかっているのです。定期検診に来ているのになぜむし歯になったんだと怒る方がいますが、問題はここだと考えられます。ご自身で良くなる努力をしなければ体はよくなりません。我々は最低限のサポートをしているだけであって、体の治癒力、免疫、日々のセルフケアはご自身の努力によってなされます。

むし歯を見つけるという行為は天気予報に近いです。「この表面には0%むし歯はない」「この隙間にむし歯がある可能性は20%」「ここには100%むし歯がある」と、目視だけじゃなくフロスの引っ掛かり、光の透過性やレーザーの反応などを見て判断していきます。なので「100%むし歯があり、穴になっており深そうだ、すぐ治療しないと悪くなりそう」というむし歯と、「怪しいけれど、確定的にむし歯があるか判断しづらい、だけれどまだ小さそうだから定期検診を繰り返す中で確定させよう」というむし歯を分けて判断しているのです。なので定期検診のサイクルを大人になってから始めた方は、「怪しかった部分」がむし歯となって現れることは定期検診サイクルの中でも往々にしてあります。

そういうこともあって可能な限り早く定期検診のサイクルを作っていくことが大事です。極端なことを言えば生まれる前から予防歯科は始まっています。妊婦さんの時からご自身の歯をきれいにしておくことで産まれくるお子様にむし歯菌や歯周病菌をうつしてしまうリスクを減らすことが出来ます。早産や低体重児出産にも歯周病は関連性があると言われていますし、-1歳から予防の考え方を知り、情報を集めておくことで、産まれてから歯科医院探しや歯が生えてきたと歯みがきの仕方の情報収集に慌てなくてもよくなります。もちろん大人になってから定期検診のサイクルを作ろうとすることはとてもいいことです。今が最短の改善地点です。歯みがきと定期検診の習慣づけを頑張っていきましょう。

本当の加害者は誰?

新しく歯医者さんにかかる際、「ここがちょっと怪しいですね」「むし歯ができています」などと指摘された時、「前医で削られてしまった」「前の先生の治療がずさんだった」「適当な診断をされた」と、他の歯科医院に対しての被害者のような言い方をする方が少なくありません。もちろん性格や内容が自分に合わない先生に会うこともあるでしょう。クリニックのスタイルに不満を抱くこともあることだと思います。ですが「歯」を主人公にしたときに、むし歯や歯周病という病気に関して言えば、ダメージを負う原因を作った張本人は誰かと言うとそれは患者さん本人なのです。本当に前の先生があまりよくないことをしたケースもあるかと思います。でもそれは治そうと頑張ってくれた結果のことです。むし歯や歯周病になった結果の過程には「歯みがきをさぼっていた」「歯医者さんに行くのが億劫だった」など、怠惰な自分に対して改める部分が多少なりともあるはずです。厳しい言い方にはなりますが、誰かのせいにするのではなくしっかりと自分の病状や現状に向き合い、ご自身が努力をしないと治るものも治りません。

じゃあ歯科医師や衛生士はどうなのかというと、正直むし歯にもなれば歯周病にもなります。それは人間だからあり得ることです。ただ即時に対策が取れますし、普段から気を配ったり、歯みがきに対してのコツを知っているのでなりにくく治りやすいのです。我々も皆さんと同じです。上目線で指導をしよう、貴方だけのせいにしようという話ではなく、同じ土俵に立って同じ目線で協力しながら病気に立ち向かい、乗り越えた際には定期的な検診を続け、長く関係性を続けることで一緒に健康を保っていきたいのです。

目が悪くないのに眼科に行く、調子が悪くないのに内科に行く、たぶんお医者さんは「何をしに来たのですか」と言うでしょう。歯科には何も無いのに来ると誉めてもらえます。何も無くても出来ることが歯科にはあるのです。

担当の衛生士さんとの関係性はどんな仕事の関係より長く続く可能性があります。人生にずっと寄り添うことが出来るからです。担当してくれた看護師さんには入院が終わればもう会うことは無いでしょう。ですが衛生士さんは定期検診に行く限りお世話をしてくれます。あなたの口腔内の健康に寄与できるようあらゆる手を尽くしてくれるでしょう。是非かかりつけの歯科医院、毎回自分の歯を見てくれる衛生士さんを作り、データを溜めていきながらお口の健康をキープする体制を整えてもらえたらと思います。

こんなメリットがあります

歯が残る

 

現在の歯科事情ではもう少しデータとしては良くなって更新されていそうなのですが、上記の図は定期検診を受診すると歯を失う確率が減り、痛いときだけ受診している人はほとんど歯が残らない、という歯科界では有名なグラフになります。歯みがきをちょっと習っただけでは結局歯は失われていくし、症状がある時だけ来院するというのは歯科医院の上手な使い方ではないのです。歯は365日働いており、すり減ること、欠けることもある組織です。体は年齢で衰えていきます。考えなくてはいけないことは、衰える速度を緩やかにすることなのです。患者さんは歯が治ると「治った!これで元通りだ!」と思っているかもしれません。何なら「前より良くかめるようになった!」とプラスに転じたように喜んでくれると嬉しいことではあるのですが、私たち医療者は大きなマイナスが小さなマイナスに変わっただけで、プラマイゼロには決してなっていないと思っています。むしろ治療が終わった後のキープが一番大変なのです。ダイエットも痩せることは短期間の我慢と努力でどうにかなりますが、体形の維持することやリバウンドを防ぐのには長期間の我慢と努力が必要になります。治療の終わりがゴールではありません。死ぬ直前まで美味しくご飯が食べられること。そして美味しくご飯が食べられたから健康寿命が延びること。それがゴールだと思います。

病気を予防できる

  • 心筋梗塞
  • 心内膜炎
  • 糖尿病
  • 脳梗塞
  • がん
  • 誤嚥性肺炎
  • 認知症
  • 動脈硬化症
  • 早産・低体重児出産

上記に挙げた全身疾患は歯周病との関連性が高く、口腔ケア、歯周病治療、定期検診、クリーニングを受けることで、予防効果、リスクの低減が認められた病気です。2025年度の歯科検診義務化もこういった全身疾患を歯科検診で予防する流れを作り、医療費を下げていきたい狙いがあります。逆に言えば、それくらい効果が見込めると捉えられているのが歯科検診・口腔ケアなのです。

家族や友人に感染させない

歯周病菌やむし歯菌は唾液の飛沫を介して他人にうつります。子供にフーフーして物を与えるだけでもうつる可能性があると言われています。ご自身がしっかり歯の病気に取り組むと、ご家族が病気になるリスクも減ります。

お子様を持つ親御様へ

お子様は何か習い事をされていますか?ピアノ・水泳・サッカー・野球、、、色々ありますね。もちろんそれが上達して仕事になって、将来有名になって食べるのにも困らない、という可能性もあります。ですが本当に食べるのに困ることは歯が無くなることです。習い事で習うほとんどのことは、毎日続けるでしょうか。また死ぬ直前まで続けるでしょうか。歯みがきは毎日やります。自分で磨けなくなるまで続きます。当院のある和歌山市では現在0~18歳まで医療費は自己負担0割です。ちゃんと通って歯みがきが出来るように指導を受けるというのは、0円でできる一生続けるスキルに対する習い事なのです。早めに予防意識を持たせ、歯が悪くならない基盤を作ってあげて、健康な歯、歯ならびでいられるようにしてあげることが、成人するまでに親が出来る最大の贈り物です。是非お近くの歯医者さんに連れて行ってあげてください。

達成したい夢には集中力が不可欠です。もし受験の真っただ中に歯が痛み出したらどうでしょうか。歯ぐきが弱っている歯がサッカーの試合中に相手とぶつかって、抜けてしまったらどうでしょうか。集中して物事に取り組むことは出来ないですね。健康な歯でいることはパフォーマンスを高めます。かみ合わせが良いと脳刺激を与え、脳細胞を活性化させるとも言われています。今はMFTと言って、筋肉トレーニングを利用してぽかん口を治し、呼吸癖を改善するようなことまで歯科で出来る時代です。「痛がっていないから歯医者に行かなくてよい」ではなく、「むし歯もないけれど、歯みがき力を高め、口元の筋肉を鍛えて体の調子を整える」時代になってきています。

予約を守ることの大事さ

正直病気では無いしなぁ、、、などと考え始めると定期検診の予約は「今回はめんどくさいし少し先に変えてもらおうかな」となりがちです。モチベーション高く定期検診に通っている方はあまりありませんが、むし歯治療の方は予約の変更やキャンセル、無断キャンセルを繰り返す傾向にあります。むし歯や歯周病はだらしなさが一つのファクターで起こる病気です。ちゃんと襟を正して治そうと思い、しっかり歯科医院に通わないと治らない病気です。スケジュール管理、生活リズム、そういうのを整えるのも含めて治療の一環です。治療はなおのこと、定期検診も「定期的に見ていく必要があること」「歯周病の周期があること」「習い事として歯みがきのトレーニングに取り組んでいること」を考えると、簡単に予約をキャンセルすることはやめましょう。どんなに仲のいい友人にだって「今日はめんどくさいから来週にして」とは言いませんよね?歯科医院のスタッフ一同はあなたの病気を治すこと、予防に取り組み健康でいてもらうことに時間を割いています。体調が悪い、不幸ごとがあった等どうしても予約を変更することはあるかと思いますが、可能な限り予約を守り、確実に行ける日時での予約を取ってあげてください。気軽なキャンセルは他人の仕事を奪います。直前にキャンセルしなければ診て欲しかった別の方が診てもらえたかもしれません。遅刻も同様です。自分が奪った他の方の時間は後ろにずっと影響してズレていきます。「この方はよく遅刻するからわざと違う時間で伝えて遅く来ても影響が無いようにしよう」「この方はキャンセルが多いから長時間のアポイントは取らないようにしよう」「この方は来るかどうかわからないから予約は取らずに来れる時に連絡してもらうようにしよう」よくある遅刻やキャンセル対策です。こうなってはすごく損です。ちゃんと来る方は優遇されていきます。時間や予約を守らない方の影響を少なくする処置です。こう対策しないと医院のスケジュールが回らないので仕方ありません。スタッフからも「どうせちゃんと来ないんだろうな」という目で見られてしまいます。定期検診含め、医療はコミュニケーションです。相手も人です。何をしても許してくれる聖人君子ではないのです。そうやって信頼や縁を断ち切り、かかりつけの医院を作るチャンスを逃すことがないよう予約を守ってあげてください。

まとめ

国民皆歯科検診も導入されるとなればどちらにせよ定期検診に行かなくてはならなくなります。ぎりぎりまで歯科医院を探さずにいると、家族がバラバラに色々なクリニックに通うことになるかもしれません。今からかかりつけの歯科医院を探し、優先的に予約が取れるような環境を作っておくとよいでしょう。

美容室へは定期的に行く方は多いと思います。実際使っている金額も美容室の方が多いという方も多いでしょう。歯医者さんに定期的に通うメリットは上記のとおりです。髪の毛はまた生えてきますが、大人の歯はもう生えてきません。歯を失ってしまって急な出費がかさむよりも、定期的に通うことで生涯の医療費を抑えることも出来ます。

口元の印象は顔のパーツの3割を占めるといいます。継続はとても難しいことですが、歯科に定期的に通うことはQOL(生活の質)を高め、機能的にも審美的にも必ず結果が残ります。逆に言えば、先手を打つしか歯科医師が出来るむし歯や歯周病の対策が無いのです。顕微鏡レベルのばい菌と戦う方法が今はそういう方法しかありません。実際ちゃんと定期的に通うことでむし歯と歯周病のリスクを最大限下げられている方を見ると、本当に偉いなぁと思います。皆さんもぜひ歴史的偉人にはなれなくても、口腔的偉人を目指してみましょう。そのお手伝いが出来るように我々歯科医院スタッフはご来院をお待ちしております。

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